Masquerade by Replicants

「おまえたち人間には信じられないものを私は見てきた。オリオン座の近くで燃える宇宙戦艦。タンホイザー・ゲートの近くで暗闇に瞬くCビーム、そんな思い出も時間と共にやがて消える。雨の中の涙のように。死ぬ時が来た」
"I've seen things you people wouldn't bellieve. Attack ships on fire off the shoulder of Orion. I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhäuser Gate. All those moments will be lost in time, like tears in rain. Time to die." ――ブレードランナー(1982) *1 *2

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 “レプリカント”とはブレードランナー(原作:アンドロイドは電気羊の夢を見るか?)に登場する、人間そっくりのアンドロイドだ。彼らは過酷な環境から逃げ出し、人間社会に紛れ込んでいる。主人公デッカードはそんな脱走者を探し出す“ブレードランナー”として彼らを追跡する……というのがこの映画のあらすじで、サイバーパンクの先駆けとも言える本作は非常に高い評価を得ているのだけれど、その話はまた今度にしよう。

 “レプリカント”はいわば偽物だ。尤も、見た目も中身も高性能な彼らは、ブレードランナーですら判別に難儀する。ネタバレになるので詳細は伏せるけど、最初に引用したセリフはレプリカントが終盤に発したセリフで、Cビームスピーチ、なんて呼ばれている。死を悟った人間の紛い物が、自らの“人生”を回想するモノローグだ。レプリカントにも思い出があり、感情を持ち、果てには血を流す。本当に彼らは“偽物”なのだろうか?

 何をもって本物とするのか? それを決めるのはモノによってはとても難しいことなのだろう。でも人間は簡単だ。現状、この世界に人間の偽物は存在しない。仮に存在していたとしても、それをぼくたちは認識できないのだから、それは偽物ではない。誰も偽物だと判断できなければ、それは本物と同一だと思う。

 偽物の人間はいない、命題は真だ。でもぼくが話したいのはこういう真贋じゃないんだ。“きみの偽物”は確かにいない。けど、“偽りのきみ”はある。そうだろう?

 思うに、この世界は嘘と虚飾に塗れている。ぼくたちは息をするように嘘をつき、見栄を張る。自分をより良く見せるために虚飾で着飾り、化粧をする。そして“それ”を強制されているようにすら感じる。本当の自分をさらけ出したって、なかなかどうして評価はされないし、きっと誰も見ちゃくれないさ。

 事実、ぼくたちは「そいつはどこのどいつだよ」と笑っちゃうくらいに別の誰かを演じて職を得る。そんなことしなくていいのは一握りの人達だけで、凡人のぼくらは食い扶持を得るためにそうするしかないのさ。笑えるよな、ほんと。

 別に社会貢献に限った話じゃないさ。友達とも恋人とも、家族ともぼくらはきっと茶飯事の如く、嘘を酌み交わす。好かれるために、傷つけないために。それは当たり前に行われていることなんだ。

 ぼくはさ、この場で嘘や虚飾について糾弾したり、非難したりするつもりはないんだ。だってさ、『嘘をついたことない人間』なんて、いると思うか? 「わたしはうそをついたことがありません」なんて言うなら、それが嘘だろうね。――或いは、そいつが人間の偽物かもしれない――かくいうぼくだって、嘘をつくし見栄を張るさ。“何回”なんて、もう分からないね。きみもじゃないか?

 嘘をつくとき、ぼくは仮面を被る。その仮面は一つだけじゃない。仮面ごとに『ぼく』という存在は少しづつ異なった様相を示す。そしてその数は日に日に増えていく。仮面の上に仮面を重ねる。素顔は下へ下へ埋もれていく。本懐も本心も、底へ沈んでいく。誰かから見るぼくは、厚化粧で塗り固めた仮面、いわば“偽物”だ。彼らがぼくの本音を知る由はない。

 でもさ、誰かから見たぼくはさ、その仮面が本物なわけでさ。ぼくから見た誰かも、きっと仮面を被っているわけでさ。鏡に映る自分が“本物”なら、きっとその仮面が“本物”なわけでさ? …………正直に言おう。分からないんだ。何が本物で、何が偽物か。自分のことすら、もう分からないんだ。嘘をつき続けて、見栄を張り続けていたらさ、そんな簡単なことも分からなくなったんだ。

 なんだかさ、気でも触れそうなんだ。本物だの偽物だの、御託を並べてごちゃごちゃいっても、結局ぼくがなんなのか、答えなんか出やしないんだよ。思いっきり叫びたい気分だね。「なにが本物だ! なにが偽物だ! 薄皮一枚引ん剥けば皆おんなじ肉の塊じゃないか! 死なばもろとも、百年後には全部骨だ!」なんてさ。考えたって解決しないんだったら、叫んですっきりしたほうがマシかもね。

 案外さ、もしかしたら全部偽物かもしれない。実はこの世界はすごいシミュレーションゲームで、ぼくら全員NPCだったり。そしたら心すらも紛い物だ。――考えれば考えるほど、分からなくなるから、もうこの話は終わりにしよう。

 ただ最後に一つ。ぼくやきみの信じる“なにか”、どうかそれだけは、本物であってほしいと願う。ぼくにとっての“それ”は絶対に手に入らないものだ。だからこそ、それだけは本物であってほしい。きみにとっての“なにか”、それは果たして、本物だろうか?

 

 “ライ麦”のホールデンっぽい口調で何か書きたかっただけさ。殆どでっち上げで、ここに書いてあることに深い意味なんてないんだよ、きっと。

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